無一居

写真レンズの復刻「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

古典的ドイツ光学の源流地を辿る9

ドイツレンズの"味"とはどういうものなのだろうか - 2022.02.04


ゲルツ ダゴール(ドッペル・アナスチグマット) セリエIII No.0 120mm f7.7
Goerz Dagor(Doppel-Anastigmat) Serie III No.0 120mm f7.7

 古典的ドイツ光学の源流地を辿る7にて、ゲルツの名玉ダゴールを撮影いたしましたが、かなり特殊なモデルであったことが明らかになりましたので、できれば普通のモデルを見ておきたいということで、最初期のこのレンズを試すことになりました。シリアルがNr.37551ですから、1895年ぐらいのものです。19世紀末のものです。フォン・フーフが最初にダゴールの特許を申請したのが1892.12.19で、販売はそれからしばらくしてなので、これがオリジナルになる筈です。最初期のダゴールです。120mmですから、大判での広角レンズです。f7.7です。



 筆のタッチを写真で表現する ダゴールに概要を掲載していますが、その資料をここにも転記します。掲載の写真がここで撮影しました現物です。その上にカタログがあります。No.0ですから120mm、当時の米国価格で$40だったようです。

ヘリコイドにマウントしたダゴール

 120mm、古いものなのでこの正確性はどれほどのものかわかりませんし、この焦点距離では距離計連動はヘリコイドの入手が無理なのでf4.8と同じくヴィゾを使うことにします。無限から50cmぐらいまで寄れます。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 枝
 描写はf4.8と同様の傾向です。ですが元は大判での使用を想定して作られたものなので、この画では中央を拡大して観察していることになります。大きなイメージサークルで見ると印象は変わってくるかもしれません。それでも詳細の確認となるこの画を見る限りやはりダゴールはダゴールです。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 紅葉
 溶けるというほど柔らかくはなく適度な硬さもある不思議なボケ味ということで、この構図ではどうかと確認いたしました。風で揺れている葉を昼間とはいえf7.7で撮影するのは面倒です。本来のボケ味に動きまで加わり不明瞭さを増したのは良くなかったと思いますが、特徴は出ました。動くものは良くありません。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 麺屋
 暖簾の中心線にフォーカスされており、その前後は少しボケています。後ろのボケは率直ですが前は使いにくそうな、この点は他の多くのレンズと変わりありません。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 店舗用物件探しています
 f7.7ともなりますと少し日陰に入っただけで手持ちではかなり撮りにくくなります。これぐらい明るくないとはっきり撮影するのは難しくなります。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 鬼
 建物の2階ぐらいの高さにあるもので距離は6,7mぐらいです。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 祠
 遠景が冴えない件については強い不満を表明しておきたいと思います。しかし開放で撮るからこうなるのであって、それは本来の使い方ではないのでしょう。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 船と照り返し
 これはおそらく10~20mぐらいの距離です。湖面が太陽の光で輝くところですが、ダゴールのボケの特徴から効果的な構図なのではないかと思い撮影してみたものです。つまりシャープネスが高いレンズであれば反射が正確に描写され、それが鋭過ぎて絵にならないと思ったのです。これぐらいであれば適度に抑えられて良いと思います。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 表札と松
 これは横から太陽の光を浴びている構図ですが、太陽の光が強いという共通点はあります。墨で輪郭をなぞったような描写になります。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 梅
ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 梅と外灯
 このダゴールの活かし方で最良の形の1つは、こういう構図かもしれません。後ボケが非常にチリチリした感じがします。あまり綺麗とは言えませんが、しかしこの効果によって主題は引き立てられていますので、全体として見た場合、考え抜かれた美意識が感じられます。設計師はデンマーク貴族の末裔ですので、かの国の芸術的感性というのはこういう描写になるのかもしれません。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 黄色い花
 もう少し引きつけて撮影した例です。たいへん古風です。古い日本の江戸時代の写真みたいです。もしかすると昔の写真の遺品は写真が経年変化したものではなく、元々こういう描写だったのだろうと思わせるものがあります。赤が弱いという要素が良い方向に作用しているように思います。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 瓜子
 望遠だし暗いしということで、夜間に撮影するのはとんでもないと思いつつ、やはり確認はしておかなければなりません。これは強い光源を浴びたことでシャッタースピードが上がりブレがなくなりましたが、その代償として対象が暗くなってしまってはっきり写っていません。意図も明確ではなくなってしまいました。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 北京ダックの店
 かなり明るい建物であるとはいえ、これだけ距離を置くとかなり光量不足です。何度撮影してもブレてはっきり写りませんので、電信柱にくっつけて撮影したものです。それでも光が滲んで写ってしまうので、明瞭な画にはなり得ません。撮った物が赤系であったのもマイナス材料です。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 散髪屋のポール
 ポールはそれなりのスピードで廻っていますので、そこだけブレています。とはいえ、全体的に不明瞭感が伴うのは、致し方有りません。それでも100年前のレンズということを考えると、意外と優秀とも思えます。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 屋台
 後ボケはチリチリして汚いが使い方によっては活かされるということは確認しました。前ボケはどうでしょうか。こんな感じになります。ソフトフォーカスレンズのような魅力を引き出すこういう使い方も1つのオプションになり得ると思います。

 あらゆる古いレンズが古典的な描写を示すとは限りませんが、III/oが示す"はんなり"とした描写はまさに古典的なものです。写りが古典的なので、古典的な街を撮るということで例えば京都あたりを撮るとすれば、一般的なレンズではあまりにも具体的に写り過ぎて情緒や一歩引いた時に顕れる品格は望むべくもないかもしれません。そういう時に本レンズはベストチョイスという印象があります。ただもう少し焦点距離が短いものがあれば良いと思います。


 そこでカラー対応が苦手な様子のこのレンズをこのまま使うのではなく、一手間掛けて使ってみたいと思います。Adobe Photoshopに自動で補正する機能が3つあります。どれでもいいですが「自動カラー補正」が相性が良いようなので、これを使いたいと思います。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 黄色い花(カラー補正)
 この方がだいぶん良いように思います。こういうボケは普通見苦しくなりがちですが、水墨画のような趣のこの独特の作画表現は得難い価値があると思います。色彩の調整は必須と考えた方が良さそうです。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 梅(カラー補正)
 かなりビビッドです。空が青過ぎます。こうなると手動調整に切り替えるべきかもしれませんが、この方がおもしろいのではないかということでこのままいきました。ピントが甘いと思っていたのは実はそうではなく、骨太の輪郭を得るためのものだったのかもしれません。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 船と桟橋(カラー補正)
 表現を骨太にしている代償にトーンを失っていますので、こういう暗いところが多い画は苦手になります。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 船と照り返し(カラー補正)
 これは良いかどうか微妙なところです。こういう画は、狙う表現によってどの程度調整すべきか検討が必要です。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 赤い扉(カラー補正)
 赤はだいぶん蘇りました。それでも若干弱いと思います。これもさらなる調整で何とかなるとは思います。やはりこのレンズは和風、いやそうではなく、明治大正あたりにこういうレンズを輸入していたのでしょう。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 大理石(カラー補正)
 あまり強い光を当てなければこのようにしっかりと発色します。しかし発色し過ぎであるのはこれも同様です。そもそも現代のソフトウェアは現代のより高性能なレンズを調整する前提で作っているのでこんなバランスには対応できないのだと思います。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 文物保護単位のプレート(カラー補正)
ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 平房求む(カラー補正)
 白が基調になると冴えて美しくなります。しかし持ち前の淡い表現も魅力があるので、どの程度残すかは目指す表現によって変える必要があると思います。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 祠(カラー補正)
 遠景は救いようがありません。開放では、もっと近い対象を撮るべきレンズと割り切った方が良いと思います。このダゴールは普及品の中判カメラの蛇腹に固定されていたものです。ツァイス・イコン時代に販売された安価な黒箱カメラでテンゴール Tengorというのがあって、これにゲルツブランドのフロンター Frontar色消し2枚玉(米特許 US1643865)が取り付けられていました。たいへん評判が良く有名ですが、これもやはり遠景は良くないとされていました。近いものを撮ると素晴らしいということで、その点ではこのIII/oと似ていると思います。しかしフロンターよりもIII/oの方が優れているのは間違いありません。それに絞れるので遠景も撮影できると思います。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 北京ダックの店(カラー補正)
ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 散髪屋のポール(カラー補正)
 夜間の撮影も試してみましたが、昼間ほど顕著な差は見られません。それでも画像が締まりますので、面倒は見た方が良さそうです。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 屋台(カラー補正)
 暗い部分は潰れやすい傾向があるので、こういう暗いところでは逆効果になりそうです。

ゲルツ Goerz ダゴール Dagor(ドッペル・アナスチグマット Doppel-Anastigmat) 120mm f7.7 モデル(カラー補正)
 最後に肖像画を見ておきます。非常に清々しいクリーンなイメージになりました。現物とはやはりカラーバランスが違います。ダゴールは前後のボケに特徴がありますが、このような平面であれば当然それらの特徴は出ません。線を太く、濃く描こうという特徴はこの画からも感じられます。

アールヌーボーデザインの切手
 思うにダゴールの風格は19世紀末から20世紀初頭にかけて欧州を席巻したアールヌーボーの影響を反映しているような気がします。このゲルツの広告は、背景の重い描写の上からシャープさをイメージさせる肖像画を重ねていますのでわかりにくいのですが、この人物を除いた部分の風格が即ちそれです。クリックしていただきますと、もっとわかりやすい画を掲載してあります。


 2021.03.28、近所の公園で桜を撮影します。ガラスにだいぶん曇りがあるのでPhotoshopの自動トーン補正を使用しました(今回は自動カラーではなく)。本来の描写が完全にわかる感じではないのでしょうけれども、III/oならではの質感は感じられると思います。ライカM9です。
ゲルツ ダゴール 桜1
ゲルツ ダゴール 桜2
ゲルツ ダゴール 桜3
ゲルツ ダゴール 桜4
ゲルツ ダゴール 桜5
ゲルツ ダゴール 桜6
ゲルツ ダゴール 桜7
ゲルツ ダゴール 桜8
ゲルツ ダゴール 桜9


 2021.04.03、ガラスを回して外してクリーニングしましたのでやり直しました。それでも1枚目以外は自動トーン補正を使用しました。風が強いので枝が終始揺れており、少しボケているものもあります。
ゲルツ ダゴール 花1
ゲルツ ダゴール 花2
ゲルツ ダゴール 花3
ゲルツ ダゴール 花4
ゲルツ ダゴール 花5
ゲルツ ダゴール 花6
ゲルツ ダゴール 花7
ゲルツ ダゴール 史跡
ゲルツ ダゴール 楽器商組合
ゲルツ ダゴール 舞台
ゲルツ ダゴール 宮城道雄
ゲルツ ダゴール 長唄
ゲルツ ダゴール 石碑

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