無一居

写真レンズの復刻「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

幾何学計算に基づいた世界初のレンズ4

最古のレンズ、針穴レンズ - 2013.07.20


ピン・ホールレンズ
Pin Hole Lens

 写真用レンズに複雑な計算がなされて高度な性能のものを作るようになったのはここ二百年以内のことで、それ以前には単に小さな穴を開けたものが使われていました。こういうものを現代ではピン・ホールとか針穴写真と呼んでいます。古くは中国の墨子の中に記述が見られ、アリストテレスの著作の中にも言及がありますので、2000年以上もの歴史があるようです。その後しばらくの停滞期間を経て、中世イスラム世界で詳細な研究がなされ、これが現代光学の基礎になったとされています。それがイエスズ会の宣教師らによって欧州にもたらされ、ある人は自宅の壁に穴を開けて部屋を真っ暗にし、人を呼んでは壁に投影された外界の様子を見せて "魔術" などと呼んでいたようです。将に小学生レベルと言わざるを得ませんが、光学を愛好する我々にとってはこれが "偉大な先人" の姿なのです。篤く尊敬されているのです。

 ということで、ガラスの途方もない可能性に目覚めた我々現代人が過去の話を蒸し返してまで針穴写真を論じる意味はありません。ところがこれが意外と奥が深いという・・・穴の精度で画像品質が決まるなどと言われ、最新鋭の機器で打孔したというものまで販売される有り様で、最近はごく一部のメーカーがおもちゃの延長的な感じで出しているだけだと思いますが、10年以上前は海外の拘ったガレージメーカーが高グレード品を出すなど、盛り上がっていた時があります。しかも私が購入したものは、穴の大きさが微妙に異なる2枚セット(画角が違う)というもので、かなりそそられたのは言うまでもありませんが、今になって冷静に考えてみると、これも思考が小学生レベルだったと気付かされます。「性能がよい」と言ってもたかが針穴写真なのです。それで世間からも一過性のものとして忘れられていきましたが、私が今やレアとなったこういうものを購入していて作例を載せるのですから、後代の人類から尊敬を集めることができると期待して良いのでしょうか。否、やはり小学生レベルと嘲られるのでしょう。

 それで失意の内に交換穴の片方を日本に忘れ、もう一方のスタンダードな方は本体についたままですので、これのみで撮影していきます。三脚を立てる必要があるなど面倒ですから、強い意思を以て推進して参りたいと思います。

ピン・ホールレンズ 天安門
 世界的に有名なある門です。ただの孔だけでここまで写るのは驚きです。

ピン・ホールレンズ 天安門を潜ったところ
 門を潜って中に入るともう1つ巨大な門が見えます。これも潜ると正面に巨大な城壁が聳え立っており、奥にまた大きな門があります。そこが故宮の入り口です。この「入り口」という意味は有料エリアの境目ということで、上の写真でご覧いただいているのは無料エリアです。

ピン・ホールレンズ 天安門の裏側
 ほぼ同じ位置から振り返って上を見上げると、太陽の光が差しています。撮影は不可能と思える状況ですが、一か八か撮ってみます。何が写っているのかわかりますのでOKとしておきます。今からこの上へ上がっていきます。上は有料で15元です。

ピン・ホールレンズ 天安門へ上がる階段
 この階段から上へ上がります。贅沢な広さの階段です。暗い部分と明るい部分の混在した難しい構図ですが、意外と問題にしていません。よくあるのは、どちらかが潰れてしまうことや、差を縮めたような対策?がなされたような対処がありますが、これはナチュラルです。孔しか使っていないのですから当然ですが、これが良いかどうかはさておき、肉眼に近いのは確かです。

ピン・ホールレンズ 天安門楼上
 ここから天安門の下を眺めることができます。ここは1949年10月1日に建国宣言された場所ですので、歴史的に重要なところです。その後、軍事パレードの時に要人が陣取る場所にも使われてきましたが、今では軍事パレードはなくなり、春節に天安門広場全体が大規模な音楽祭の会場として使われるなど平和的になってきています。

ピン・ホールレンズ 天安門楼上室内
 建物の中は立派なシャンデリアがあります。中はエアコンがかかっているということもありますが、結構涼しいので驚きます。建築自体がしっかり作ってある感じがします。

ピン・ホールレンズ 天安門楼上から眺める天安門広場
 見下ろすと植木が邪魔な感じはあるものの、天安門広場は一望できます。正面に見えているのは、毛首席記念堂で、毛沢東の亡骸が安置されています。大人気なのでいつも込んでいますので入場を試みたことはありません。

中国建国時の天安門楼上
 これが建国時の様子です。

ピン・ホールレンズ 景山公園入口
 今度は故宮の北側に移動します。ここには現在「景山公園」というエリアがあり、ここにある丘から故宮が一望できます。入場料は10元です。この作例では色彩がしっかり出ていますが、光のコンディションに影響を受けやすく安定はしていません。

ピン・ホールレンズ 景山公園 丘へ上がる階段
ピン・ホールレンズ 景山公園 頂上へ上がる階段
 こういう階段を使ってとにかく上へ上がっていきます。太陽の日差しが強く、写っている物が煌めいた感じがあります。

ピン・ホールレンズ 景山公園 御土産屋
ピン・ホールレンズ 景山公園 古代衣装の写真撮影
 f値はおそらく200以上なのでガラスを使ったレンズと比較すると常識外れな暗さですから、動く人物はブレやすくなります。それでも光量が多いので意外と問題なく写っています。それでも歩いている人物の撮影は無理です。

ピン・ホールレンズ 景山公園から故宮を望む
 空気が澄んだ日でしたので、遠くまでしっかり写っています。写真下方の門は景山公園南門で、その向こうは故宮の北門です。その間の広場は堀に掛かっている橋です。右奥に銀色に光った国家大劇院が見えます。その左に人民大会堂(国会議事堂)があります。その左は見えませんが、天安門広場です。

ピン・ホールレンズ 景山公園 北京城の中心を示す銅版
ピン・ホールレンズ 景山公園 バス停で待つ観光客
 こういう画像を見るとどうして "魔術" と呼ばれていたかわかるような気がします。これは静止画ですが、動画で撮っても幻想的な動きが捉えられそうです。

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