メイヤー Meyerは、1896年創業の非常に長い歴史を持った光学会社ですので、全体を時代毎に3つに分類します。
1,戦前のMEYER(メイヤー) - HUGO MEYER(フーゴ・メイヤー)と記載されているものもありますが、ほとんど同じものです。戦前のノンコートのメイヤーは単に「メイヤー」としかクレジットされていなくても、フーゴ・メイヤーと同じガラスが使われており品質も同様です。この時代のメイヤーは安価なものは少ないのですが、特に大口径のものは非常に高価です。小口径のものは価格が下がる傾向がありますが、質は極めて優れています。戦前の新ドイツ派のレンズとしてツァイスに並ぶ存在です。
2,過渡期のMEYER - HUGOのガラスを使っており、単層コートがされています。OPTIKの記載がないものです。
3,後期のMEYER - 改良されたガラスに代わり、基本的にOPTIKの文字が入っています。古典ドイツ派の味わいを継承するドレスデン派を代表するものであって、同じメイヤーでも戦前のものとは違うものです。
このようにメイヤーの場合は個性が時代によってずいぶん違います。大きく2つの時代に分けられます。戦前メイヤーの最大の特徴は、ツァイスを退職したパウル・ルドルフを招いてプラズマート Plasmatシリーズを発売したことです。フーゴ・メイヤーと書かれたプラズマートは極めて貴重品ですが、フーゴともプラズマートとも書かれていなくても、この時代のメイヤーはたいへん優れたものです。戦後、ペンタコン公社に吸収されてからのレンズは品質が落ち、現在でも非常に安価で購入できます。
3枚玉のトリオプラン Trioplanは安価で製造できますので、コストの制約の厳しい製品に使われていたようで、さらに製品のバラつきもあったので、特にこれが評判を貶める原因だったようです。しかし戦前のトリオプランは性能面でたいへん素晴らしいもので、全く別の製品と言っても良いぐらいです。ただし、バラつきがあるからとか、光学性能をあまり追求していないからダメ玉と考えるのは早計だと思います。その評判の悪かった後期のトリオプランとは、すなわちメリター Meritarとほぼ同じものです。戦前のトリオプランはもっとはるかに高性能のレンズではありますが、個性が違うだけという見方もできます。メリターが持っている特質は戦前のレンズにはないと思います。戦前と戦後では取り巻く環境が全く違います。その中で戦前にあれだけ素晴らしいものを作ったというのは驚きですし、それと比較してもっと厳しい環境であれだけの美しい描写のレンズを作ったという戦後のレンズも別の意味で驚嘆すべきものです。
戦前のメイヤーは価格が高額という問題がある上、さらにノンコートと、かなり特殊な趣味のレンズです。一般的には戦後のメイヤーを愛好するのが自然です。大量に作られていたということもあり、さらに冷戦時代に最高の工学技術を有していた東独の製品ですから、素晴らしいレンズが安価で購入できます。安価な理由は大量に売れたことと関係しており、売れたということは当時は評価が高かったということです。
ここで混乱を避ける為にもう少し整理しますが、戦前の玉は映画用レンズが中心です。それでプロ仕様で作ってあります。映画用のレンズはどの会社のものも高額の費用がかけられています。その必要性も十分にありますし、顧客からも価格より品質が求められていました。スチール用のレンズにも同じようなことが言えますが、映画用レンズ程徹底するのは行き過ぎであって、映画のスクリーンと写真では大きさが違うので当然です。また一般の人が普通に買えて十分な作画が得られるものも求められます。精度を厳密に合わせ込む必要性がなければ、これをやらないだけで大幅にコストダウンします。光学設計自体は戦前からの伝統があるわけですからすでに十分なものがあって、しかもそれら高額で高嶺の花だったメーカーのレンズが安価になってきたので、人気が出てたくさん生産されたのは当然だと言えます。スチール用でも大切な部分は守るものの、必ずしも必要のないものはカットする現実主義の成果と言えます。普通こういう方針を決定すると時間が経つ毎に品質が劣化してきます。ロシア物、中国物はその典型です。(しかし最近の中国は向上していますが)しかしそうならないのは東独製だからであって、さすがとしか言い様がありません。技術が高度なのでコストを下げても悪くなりません。ただ外面の材料などはプロ用ものと比べれば見劣りはします。メリターに至っては見るからに安物です。だから撮った時のギャップにびっくりします。普通、外が悪いと中も悪いので。美人じゃないが性格はいいみたいなわかりにくさがあるわけです。しかし周りはライツやツァイスなど質にこだわったものが多い中でこの外見だと点数が辛口になるのは致し方ありません。
ドレスデン的な描写のレンズは他に求めるのは難しいですが、外観などの質も追求するならライツあたりに行くしかありません。それでもドレスデンの写りは特別なもので、ライカともまた違います。穏やかで芸術的な写りと相まって、落ち着いた大人の気軽な趣味として楽しめるレンズとして貴重な資産であって、これが安価なのはたいへん好ましいことだと思います。幅広い製品名にはある程度、法則性がありますので、そのあたりを踏まえた上でリストしておきます。
戦後のものだけであれば、安いので一通り集めてもたいした金額になりませんが(ツァイスの方が安いのでメイヤーは安くはないという意見もありそうですが)プリモプランかオレストンのどちらかがあれば普通は十分です。ボケ玉の魔力も相当備えており、引きずり込まれていろいろ他にも欲しくなってしまう危険性すらあります。これだけ良かったら、他のはどうなんだろう?と考えさせてしまうような資質があります。考えないようにするか・・・どちらが幸せなのかはわかりません。収差を使って表現を追求しているレンズが持っている魅力の良さが堪能できます。
最後にシリアルナンバーをリストします。
年 | シリアルナンバー |
---|---|
1930 | 500,000 |
1935 | 675,000 |
1938 | 900,000 |
1940 | 998,000 |
1947 | 1,051,000 |
1951 | 1,200,000 |
1954 | 1,500,000 |
1955 | 1,600,000 |
1957 | 2,000,000 |
1960 | 2,500,000 |
1965 | 3,500,000 |
1971 | 5,000,000 |