無一居

写真レンズの復刻「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

院落 P1 50mm f1.9 小店での作例

仕様 お寄せ頂いた作品  キノ・プラズマート Kino Plasmatの復刻 - 2021.07.27

 ツァイスのパウル・ルドルフは、プラズマートの設計を同時に3種発表しています(天下の宝玉 キノ・プラズマート「院落」P1 50mm f1.9参照)。実際に製造されたものはこのうちの1つで、f2のものですが、少し設計に余裕があったのでガラスの直径を少し大きくしてf1.9で復刻いたしました。(すべて写真をクリックしたら拡大します)。

 完成して受け取ってすぐの2021.7.27に少し撮影いたしました。撮影場所は、銀座〜有楽町〜丸の内界隈です。ライカM9です。

院落 P1 50mm f1.9 台北餃子館
 開放です。ピントが来ている位置の描写はプラズマート独特のものです。しかし光が付帯しているあたりでは柔らかくなっています。光源がそこにあるか、或いは外光が当たっているかで描写は異なります。

院落 P1 50mm f1.9 宝石店
 前ボケが美しい玉はほとんどないですがこれも同様で、左に歩いている人物の白いバッグはフレアで包まれています。反射しやすいものはこうなる傾向です。一方、後ボケは品がありますが、これも名玉はほとんど同じ、個性は異なりますが。

院落 P1 50mm f1.9 ガス燈
 撮影できる至近距離でf2です。ボケの汚れ方がプラズマート独特のものがあります。

院落 P1 50mm f1.9 凛f1.9
院落 P1 50mm f1.9 凛f2
院落 P1 50mm f1.9 凛f2.8
 映画用の玉なので中央の主題を如何に引き立たせるかということに主眼を置いています。そこでこれですが、上からf1.9、f2、f2.8です。やはりf2が業務仕様というのはわかる気がします。

院落 P1 50mm f1.9 犬f1.9
院落 P1 50mm f1.9 犬f2.8
 ある携帯店の置物ですが、上がf1.9、次はf2.8です。ここでは描写の違いを見ていますが、どちらが良いのかは何を撮るかによります。多くの場合、少し絞って抑えた方が良さそうです。

院落 P1 50mm f1.9 椿屋珈琲f1.9
院落 P1 50mm f1.9 椿屋珈琲f2.8
 これも同じく上がf1.9、次がf2.8ですが、開放はあまりにボケがはっきりしません。しかし夜なら良い筈です。

院落 P1 50mm f1.9 女神像
 室内のような太陽光の少ない環境では美しくボケが活かされそうです。

院落 P1 50mm f1.9 三芳ファーム
 使いにくい前ボケもこういう環境では活かされます。太陽光も間接的な光であれば良いですが、直接光は難しそうです。もっともどのレンズもこういう傾向はありますが。それでもプラズマートの出図は独特です。

院落 P1 50mm f1.9 牛の本店
 屋外ですが夕方ということもありますし、光源が多くても弱いので、溶けるようなボケが表出しました。

院落 P1 50mm f1.9 エントランス
 ショッピングセンターのエントランスなので光は柔らかくとも光量は十分です。絵画調で撮れそうだと思ったので開放で。

院落 P1 50mm f1.9 秤
院落 P1 50mm f1.9 工具
 対象を独特の柔らかさで捉えるのでガラスも肉眼で見るよりも柔らかい膜のように写ります。

院落 P1 50mm f1.9 行列の表示
 映画用レンズは主題を引き立たせますが、しかし背景の人物を無にしてはいけません。やはり必要な素材であることには代わり有りません。主役を喰ってはいけないが、背景もまた語る必要があります。そこでこういうボケ方になったのでしょう。アール・デコの影響を感じさせます。

院落 P1 50mm f1.9 暖簾
院落 P1 50mm f1.9 暖簾2
 ドイツで設計されたドイツの玉には違いない。それでもオリジナルのプラズマートも布の質感は柔らかく捉えます。絹はシルクロードを通じて欧州にも運ばれていたので違いはないのでしょう。

院落 P1 50mm f1.9 噴水
 水もガラスと同様ですが、ここでの水は動きがあるので輪郭が少し溶けた感じになっています。

院落 P1 50mm f1.9 公園
 プラズマートというと一般に知られているのはこういう周辺が流れた画です。特殊効果を狙う以外の作画では好ましくないものです。動画なら幻想的に映りそうです。



 2021.8.12 六本木界隈
院落 P1 50mm f1.9 消毒液
 写真家の使うライティングは限定されたエリアを照らす場合が多いですが、撮影対象にのみ光を当てて背景には当てないということもあります。背景のこのボケ方であれば、印象としてはモナリザの背景のような感じがあります。明るさに落差があるのでもう少し詰めた構図であればより自然かもしれません。

院落 P1 50mm f1.9 和紙のようなライト
 光学設計は数学的に結果が出るので理論上の性能は製造前からわかる筈ですが、微妙な味ともなるとなかなか難しいことで、フランスのアンジェニューが試作を複数作って調べていたのが、背景のボケ方でした。全く自然にボケているところから、硬質のボケ方に変わってゆくところで、どれぐらいがちょうど良いのか、これは好みもあるので容易に結論が出せるものではありません。そこでアンジェニューはおおまかに2種類で出していました。プラズマートはその中間、というのも適当な言い方ですが、収差を残してどれぐらい絵画調にするのかというところで、1920年代頃の芸術的感覚が反映されていると感じられます。

院落 P1 50mm f1.9 休憩所
 f4です。周辺は流れるのですが、中央は非常に深度が深くなっています。しかし特許データの焦点距離は守っているので不良ではありません。古いキノでは結構よくある収差配置です。動画の撮影では動くのでどのような深度でも中央の主題に注意を向けようとすればこれが良いのでしょう。

院落 P1 50mm f1.9 YUKATA
院落 P1 50mm f1.9 とらや
 主題が中央にある時に、そこへフォーカスする傾向です。それも決して硬く捉えようとしていません。

院落 P1 50mm f1.9 Cover Nippon
 石のようなタイルを使って伝統の恒久性を、淡い色合いを使うことで伝統の優しさを表現していますが、そこへ温かな柔らかさが加わりました。

院落 P1 50mm f1.9 案内表示
院落 P1 50mm f1.9 GALLERIA
 光源の後ボケが美しいのでこれは活かしたいところです。

院落 P1 50mm f1.9 黄色い犬
 色彩感は現代ではコーティングで操作も可能なのですが、本作はコートを入れていないのでそういうことはできません。それでこの色彩になるというのはガラスの組み合わせに依存するものです。それとボケ方、さらにレンズ構成ですね。これらの条件でプラズマートの個性が決まっていることになります。どれかを変えると違ったものになっていきます。



 2021.10.6 横浜中華街。夕方から夜になりましたのですべて開放で撮影することにしました。
院落 P1 50mm f1.9 女性と鳥
 中央の主題に集約しようという強い意図が感じられます。このように意図を感じる程度までに留められれば良いのですが、昼間のようにかなり明るい状況であれば、周辺の流れが不快になりそうです。

院落 P1 50mm f1.9 cafe
 暗いのでわかりにくいですが、左下の明るい部分を見るとほとんど流れていません。光量が少ないと安定しますね。そしてプラズマート独特の柔らかさが出ます。

院落 P1 50mm f1.9 龍の意匠
 夜ですが、中華ならではの巨大看板から煌々と照らされるネオンによって円周ボケが出ています。こういう収差は動画だからといって変わってくるわけではありませんから、動画でも同じように出ますが、音声や人物の動きに気を取られるのでそれほど注目されることはない、映画でこういう収差があっても気にする人はいません。

院落 P1 50mm f1.9 中華街の看板1
院落 P1 50mm f1.9 中華街の看板2
院落 P1 50mm f1.9 中華街の看板3
院落 P1 50mm f1.9 中華街の看板4
院落 P1 50mm f1.9 中華街の看板5
院落 P1 50mm f1.9 中華街の看板6
院落 P1 50mm f1.9 中華街の看板7
 中華街のネオンを撮ろうということだったのでいっぺんに並べます。すべてほぼ同じ時間に撮影しています。空が明るく見えているものもありますが、実際には真っ暗です。オリジナルはf2なのでもう少し硬くなります。僅かですが。いずれにしても背景はソフトフォーカスです。プラズマートの特許は3つの設計が載っていますが、これはその3つ目です。後の2つはもっとソフトフォーカスです。ですからプラズマートとは、当時の映画用レンズの軟調に対し結論を出したものであるのは間違いないと思います。

院落 P1 50mm f1.9 電灯(遠くから)
院落 P1 50mm f1.9 電灯(近くから)
 同じ対象を距離を変えて撮影しています。遠くは割とはっきり映っていますが、近くは軟調です。しかし電灯の下あたりをよく見ると、そこははっきりしています。光が一定以上になると滲む、ということです。これは目的ではなかった筈で、別の意図が光に反映されたと考えられます。つまり目的は、主題をどう映すかということなのですから、主題が明瞭に映っていたとしても極力柔らかく捉えようとしているということです。そう設計したら、光に過敏になったということです。なぜなら、すべての対象物は光の反射を捉えているから、主題が人物だった場合、顔で反射するわずかの光を柔らかく捉えると、強い光源ではっきり出てしまうということです。ライティングで人物の柔らかさを変えることもできるのでしょう。

院落 P1 50mm f1.9 ダック(遠くから)
院落 P1 50mm f1.9 ダック(近くから)
 さらに近くと遠くの比較ですが、近いものも明瞭に映っています。しかし決して硬くはありません。この幻想的な感じがプラズマートのおそらく最大の特徴です。これが光源となると過敏に出てしまうということです。それもまた良いのですが。

院落 P1 50mm f1.9 電灯とマンション
院落 P1 50mm f1.9 おみやげ
院落 P1 50mm f1.9 台南小路
 柔らかくというのは埋没させる可能性もあります。しかし柔らかくも主題を引き立たせるために周辺のサポートがある、この落差が動画には必要ということのようです。

院落 P1 50mm f1.9 凹凸1
院落 P1 50mm f1.9 凹凸2
院落 P1 50mm f1.9 石柱
院落 P1 50mm f1.9 乾物
 ぐるぐると流れるというのは動きを感じさせます。静止画なら不要ですが、動画なら活かされそうです。

院落 P1 50mm f1.9 提灯
 周辺が暗いので露出は完全に提灯に最適化されています。確かに焦点はしっかりしているのですが、どことなく柔らかい、ソフトフォーカスとも少し違う、これが主な特徴でしょう。

院落 P1 50mm f1.9 中華街



 2022.09.10 浜松町。少し絞ってf2.4ぐらいです。
院落 P1 50mm f1.9 結婚式場1
院落 P1 50mm f1.9 結婚式場2
院落 P1 50mm f1.9 Guinness
院落 P1 50mm f1.9 フランスの旗
院落 P1 50mm f1.9 傘



 2022.09.22 押上
院落 P1 50mm f1.9 スカイツリー1
 f4です。距離は無限ですが、塔の上下はボケています。画の周辺だからでしょう。f4は画が中央に集約される傾向なので人物向けなのだと思います。中央はシャープなので硬すぎるようならそこから開く使い方が考えられます。

院落 P1 50mm f1.9 スカイツリー2
 この方がわかりやすいと思います。溶けるようなボケを活かす作画が求められそうです。

院落 P1 50mm f1.9 間隔
 もっと近いものを撮影すると、手前が流れています。奥は安定しています。

院落 P1 50mm f1.9 蔦1
院落 P1 50mm f1.9 蔦2
 上がf4、下がf2.8です。



 2022.09.22 築地歌舞伎座
院落 P1 50mm f1.9 歌舞伎座1
 こういう構図で主題を中心に据える場合は良さそうです。f4

院落 P1 50mm f1.9 歌舞伎座2
 このような構図では手前から、この場合は右端にピンを置き、そこから奥へとした方が良さそうです。f4

院落 P1 50mm f1.9 歌舞伎座3
 これはf4で提灯にピントを合わせています。f4は中央が奥に伸びますので正面の表示がはっきりしています。

院落 P1 50mm f1.9 髪
 こういう光の状態に対してデジタルは苦手の印象ですが、レンズもコーティングがないので少しフレア気味です。

院落 P1 50mm f1.9 猫
 f2.8で仮想的に中央が人物です。一般に考えられる右側の背景では少し周回ボケとなり、映画では良さそうです。一方、左側にこのような物がある、この位置に誰かが立っているという構図は普通あり得ないですが、これは結構鮮明です。人物の両側手前に何かがあるという構図では使えそうです。

院落 P1 50mm f1.9 紅葉
 手前の葉に焦点があるf2.8の画です。背景のボケが比較的均一で柔らかく描写されています。

院落 P1 50mm f1.9 提灯の連なり
 f2.8。これは理想的です。



 2023.01.25 銀座5~8丁目の古い建物。全て解放絞り
ストリートビューで予め調査し、国道15号線と山手線の間に目ぼしい物件がある程度あるということで行って参りました。事前研究のため、また狭い範囲なので30分ぐらいで周遊いたしました。最高気温が4度とこの辺りの水準では極寒、春節ということで中国人の方が多い、しかしツアー客はおらず、落ち着いた平常の銀座という雰囲気でした。

院落 P1 50mm f1.9 新橋駅北改札
 新橋駅の北改札を出たところです。明治42年、新橋駅改称前の烏森駅開業時の歴史的な柱が残されており、待合場所になっています。このように対象を明確に絞った構図なら良いのですが、建物のように大きな全体が明確に撮れなければならないものは不適格です。しかし状況によっては動画で、背景をどうするかということがあります。あまりに全部が明確になると主題がボヤけます。そういう観点でも見て下さい。

院落 P1 50mm f1.9 アスタープラザ ビルディング1
院落 P1 50mm f1.9 アスタープラザ ビルディング2
院落 P1 50mm f1.9 アスタープラザ ビルディング3
院落 P1 50mm f1.9 アスタープラザ ビルディング4
 アスタープラザ ビルディングです。おそらく昭和、バブル時代の建築ではないでしょうか。

院落 P1 50mm f1.9 アスタープラザ ビルディング5
 中はほとんどクラブですが、昼間なので酒類の業者が出入りしています。古い建物なので暗く、階段は薄暗い電灯が点いています。ボケ玉ゆえ、強い光をうまく捉えられません。f5.6まで絞っての撮影も試みましたが、赤いタイルが明るく写るだけで電灯自体のボケ具合は変わりませんでした。

院落 P1 50mm f1.9 サンタ・マリア・ノヴェッラ 銀座1
院落 P1 50mm f1.9 サンタ・マリア・ノヴェッラ 銀座2
院落 P1 50mm f1.9 サンタ・マリア・ノヴェッラ 銀座3
院落 P1 50mm f1.9 サンタ・マリア・ノヴェッラ 銀座4
院落 P1 50mm f1.9 サンタ・マリア・ノヴェッラ 銀座5
 サンタ・マリア・ノヴェッラ 銀座 フィレンツェ香水の専門店です。

院落 P1 50mm f1.9 フランス料理 エスコフィエ
 フランス料理 エスコフィエ 戦後より続いている名店とのことです。

院落 P1 50mm f1.9 泰明小学校
 泰明小学校

院落 P1 50mm f1.9 日動火災・熊本県共同ビル
 日動火災・熊本県共同ビル

院落 P1 50mm f1.9 東急プラザ銀座
 東急プラザ銀座

院落 P1 50mm f1.9 ㈱電通マクロミルインサイト 東京本社1
院落 P1 50mm f1.9 ㈱電通マクロミルインサイト 東京本社2
 ㈱電通マクロミルインサイト 東京本社

院落 P1 50mm f1.9 マキシドピアビル
 マキシドピアビル これぐらいの控えた光なら幻想的に写ります。

院落 P1 50mm f1.9 菊村ビル1
院落 P1 50mm f1.9 菊村ビル2
 菊村ビル

院落 P1 50mm f1.9 横須賀第5ビル
 横須賀第5ビル

院落 P1 50mm f1.9 フレンチバル・ルフージュ 銀座店
 フレンチバル・ルフージュ 銀座店

院落 P1 50mm f1.9 ウイスキーバー日々輝
 ウイスキーバー日々輝

院落 P1 50mm f1.9 お食事処 あし田
 お食事処 あし田

コラム

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