無一居

写真レンズの復刻「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

ベルリン派によるトリプレットの最高峰
キノ・ハイパー「鼓灯」C3 50mm f3.0

2015.11.22


 トリプレットは非常に優秀な設計ということで世に出ましたが、古いガラスでは焦点距離が長く、2枚目が薄くなるのでキノ(映画)には使えなかったと思われます。映画用の最初のフィルムは、我々が一般的に知っている写真フィルムの規格で、エジソンがキネマトグラフを発明した時に友人のコダック氏に作らせた歴史あるものです。写真は横に使い、映画では縦に使っていました。写真で使われるようになったのはライカ以降なので、トリプレット発明当時、写真というと大判だったので、イメージサークルが大きく違います。ですからキノ用にはその小ささに応じたレンズが必要でした。ゲルツ Goerzにはハイパー Hyparという銘のトリプレットがありましたが、これはカタログでは「ポートレート・ハイパー」として紹介され(下写真)、その前玉を貼り合わせにして小型化し明るさも増したものをキノ・ハイパー Kino Hyparとして販売しました。

ポートレート・ハイパー

 実際に市場で見られるキノ・ハイパーはおおまかに2種あるようです。最初はキノ用の収差でしたが、キノフィルムをライカが写真に転用して以降はパテントによると「写真用」「歪みのない」設計に変更し、しかしイメージサークルはキノサイズだったので、これも銘はキノ・ハイパーとして販売していたようです。

ハイパー 光学図
ハイパー 縦収差図
 写真用は1925年ロバート・リヒター Robert Richterが設計したものです (米特許 US1588612)。キノ用のデータは見つかっていません。画角は推奨が40度でf3.0ですが、50度まででも可能ですのでガラスの配置の方では50度で出してみました。収差図は50mmに合わせ46度です。トリプレットは肖像用であるとか映画用だったので収差を善用することができましたが、スタンダードな撮影レンズを作ろうと思った場合、なんらかの補正が必要ということで3枚貼り合わせになったのかもしれません。ダゴールも3枚でしたから、ここはゲルツの最も得意とするところだったでしょう。

 フルサイズで使える戦前のトリプレットでおそらく最高のものはこれです。オリジナルはゲルツ キノ・ハイパー 55mm f3.0で焦点距離が少し長いですが、それは推奨画角が40度だからだと思われます。復刻は51.6mmでほとんど変わらない上、画角が50度(焦点距離46mm)でもいけますので問題ないと思います。



 以下はハイパーと同じ形式のもので歴史的な設計の資料です。

 ペッツバールの発明が1840年で、シュタインハイル Steinheilのポートレート・アンチプラネット Antiplanet pour Portrait (米特許 US241438) が1881年頃という、デニス・テイラー Dennis Taylorがトリプレット Tripletを発明したのが1893年頃ですので、ポートレート・アンチプラネットはペッツバールからトリプレットが産み出される間の時期に発明された肖像用レンズとしてメモリアルなものの1つです。現物は全く残っていないらしいですが、シュタインハイル自身で後にクルミナー 85mm f2.8として製造されたので、これは現代でも入手して確認することはできます。

クルミナー 光学図
クルミナー 縦収差図
 特許のものはf3.2ですのでクルミナーとは同じものではありませんが、焦点距離は85mmで同じです。クルミナーは新種ガラスに変えたのだろうと思います。収差を見ると、微妙なソフトレンズであったことがわかります。
 
ユリゴナール 光学図
ユリゴナール 縦収差図
 これもポートレート・アンチプラネットと同時代のものでローデンシュトック Rodenstock ユリゴナール Eurygonalです。f4.3、画角は60度ありますので当時としては相当な広角で、収差はほとんどありません。レンズ構成は厚みを増しており、高級レンズとして提供されたものであろうことが推察されます。データはトラオレの設計書に載せられています。設計年代は不明です。

クセナー 光学図
クセナー 縦収差図
 1932年にシュナイダー Schneiderのトロニエ Tronnierが設計したものでクセナー Xenar Type Dというものです (独特許 DE544329)。肖像用に設計されており、やがてトリプレットに移行するまで、このレンズが使われていました。f3.5で画角は50度でした。焦点距離にして47mmにしてあります。

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