優れたレンズの宝庫であるアルパ・レンズリストにも所収されているアンジェニューZ型、即ちトリプレットですが、古いものなのでなかなか状態の良いものがありません。そこで新たに作っても良いのではないかということですが、おそらくZ3と思われるデータがあります (仏特許 FR1025522)。Z3は75mm f3.5でしたが、50mmでも可能です。
f3.5では球面収差が多いのでf4というような説明がありますが、f4は僅かにアンダーになります。アンジェニューでアンダーはないと思いますし、75mmであれば肖像を念頭に置いている筈なのでf3.5で出されたのだと思います。
3枚玉というのは今も昔もコストダウンモデルです。売れるか売れないかはケースバイケースであったと思われますが、いずれにしても大事には扱われてきていないことが多いです。それで状態の良い3枚玉は少ないです。
レンズの購入者というのは一次顧客と、二次以降は違います。新品を買う顧客は最新の性能を好むため、ツァイスや日本のメーカーが成功してきたのはそのためでした。その結果、ボケ玉は売れずレアとなり、中古市場に目を向ける人々による再定義で、だいぶん後になってからかなりの評価がつけられたりします。ですから「ボケ玉ですが」などと言って販売しているようでは極寒状態になります。そうして消えたメーカーは多いですね。縦収差図を見ないとレンズの特性はわからないと思いますが、これを見ると収差があるのがわかるし、かといって味のないレンズを作るわけにはいきません。別の理由でも公開したくないという事情もあるかもしれません。それで横収差曲線を出しているメーカーが多いです。どれぐらい像面に均一に映しているかを見るものなので味はわかりません。ですが、一次顧客にとってこの方が重要です。
この状況で3枚玉を販売するということなのですが、もちろんトリプレットが優秀ではないということではないのですが、3枚しかないわけですから高級品として受け入れられるのは困難です。どんなに描写が芸術的でも新品を買う一次顧客には支持されません。レンズ構成のシルエットは公開せねばなりませんが、そこで3枚だけという時点でもう駄目なんです。高い金を払うわけですからあり得ないのです。一番安価なモデルがトリプレットになってしまいます。購入者が防湿庫で保管する顧客でないことしばしばです。しかし再検証グループによると、上位モデルより、最下位の3枚が最も優れていると評価されることが時にあります。3枚だけというは多少なりとも無理があります。そこから溢れ出るものは自然の摂理に基づいています。欠点の筈ですが美しいのです。このアンジェニューのレンズもガラスは高価なものを使っています。
それでは、トリプレットの中で歴史的にはどの玉が美しいのでしょうか。古くはゲルツ ハイパー、これを継承したと思われるデルフト アルフィナー、東洋にもあります。ニッコール 105mm f4、上海・海鸥-31です。これらは全て傑作です。特に美しいと昔から言われているのはアンジェニュー Z1です。決定稿の1つです。ですから、最終回答的な3枚玉を追求すると、率直にこれをそのまま作った方がいいと思います。
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