戦前ゲルマンの大口径
アストロ・ベルリンの大口径にはタホン Tachonという名称が当てられています。明るいものでf0.75,f0.95というものがあり、量産されたものはバックフォーカスが数mmしかないレントゲン用でした。4カ国で出願された特許 (独特許 DE538872、仏特許 FR716168、英特許 GB367237、米特許 US1839011)にはf1.3のデータが記載されています。f0.95のものとして知られているレンズ構成は後群4枚貼り合わせを伴うゾナーで、f1.2とも記載がありますが同じかどうかはわかりません。特許データのf1.3は後群がスピーディック型になっています。そして十分なバックフォーカスがありますがそれでもライカのフランジバックよりわずかに少ないです。
アストロ・ベルリンがタホン系の設計を完了したのは1930年頃です。後にナチス・ドイツがオランダを併合した後、この種のレンズはデルフトが引き継いだようで、しばらくはアストロの設計で製造していたのかもしれませんが、戦後デルフトは独自に改良を進め、そのバックフォーカスの極端に短いレンズが中古市場に時々出ることがあります。そしてやはりデルフトもバックフォーカスが長いこの種のレンズで特許を取っています (米特許 US3357776)。これは65mmにすることができ、f0.95とf1.1の2種がありました。デルフトはガウスでした。アストロはf1を超える構成のデータを公開しておらず(デルフトは公開している)、f1.3は医療用とは記載されていません。撮影用で、近接も可能とあります。しかしレントゲン・キノ Röntgen-Kinoはf1.25です。何を撮影するにしても一般のスナップでこれだけの大口径を必要とするのかとなると趣味はともかく実用面で有力な理由がありません。ここで確認するタホンはキノと考えて良さそうです。
特許データの公称値はf1.3ではありますが、もう少し余裕があり、正確にはf1.2439です。実際にはf1.25とみた方が良さそうです。f1.2でも可能なように思えます。アストロにf1.3はないので実際に製品化された時にはf1.25或いはf1.2で作られたものと思われます。おそらくですが最初に作られたものはf1.25で、微妙に特性が悪くなろうとも少しでも明るいオプションが欲しいとなってf1.2が作られたのかもしれません。f1.2はボケ玉になりそうです。ではf1.25はというと、これは優秀と言ってもいいのかもしれません。撮影と言っても俳優を撮るような用途ではないように思います。近接も使えると言っている時点で自然界とかそういう用途かなと思いますね。以下、収差図は上からf1.3,f1.25,f1.2です。
近接ですが、1930年代ぐらいの常識ですからどれぐらいになるのでしょうか。これも確かに結構寄ろうと思えば寄れるのですが特性面から限度もありそうです。レンズの先端から30cmというところが妥当な限界のように思います。最短30cmでf値は1.5が限界でそれ以上は光を捉えられません。絞りはf1.2の位置でf1.5ぐらいまで低下するということです。下図はそのf1.5の状態です。f1.2→f1.5は光量半分ぐらいだと思います。50cmぐらいに離せばf1.4、1mでf1.3まで回復します。このあたりはどのレンズでも同じでしょう。
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