無一居

写真レンズの復刻「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

ゲルマンの巨砲 タホン
「醉墨」E1 50mm f1.3

2015.11.20

戦前ゲルマンの大口径

 アストロ・ベルリンの大口径にはタホン Tachonという名称が当てられています。明るいものでf0.75,f0.95というものがあり、量産されたものはバックフォーカスが数mmしかないレントゲン用でした。4カ国で出願された特許 (独特許 DE538872、仏特許 FR716168、英特許 GB367237、米特許 US1839011)にはf1.3のデータが記載されています。f0.95のものとして知られているレンズ構成は後群4枚貼り合わせを伴うゾナーで、f1.2とも記載がありますが同じかどうかはわかりません。特許データのf1.3は後群がスピーディック型になっています。そして十分なバックフォーカスがありますがそれでもライカのフランジバックよりわずかに少ないです。



 アストロ・ベルリンがタホン系の設計を完了したのは1930年頃です。後にナチス・ドイツがオランダを併合した後、この種のレンズはデルフトが引き継いだようで、しばらくはアストロの設計で製造していたのかもしれませんが、戦後デルフトは独自に改良を進め、そのバックフォーカスの極端に短いレンズが中古市場に時々出ることがあります。そしてやはりデルフトもバックフォーカスが長いこの種のレンズで特許を取っています (米特許 US3357776)。これは65mmにすることができ、f0.95とf1.1の2種がありました。デルフトはガウスでした。アストロはf1を超える構成のデータを公開しておらず(デルフトは公開している)、f1.3は医療用とは記載されていません。撮影用で、近接も可能とあります。しかしレントゲン・キノ Röntgen-Kinoはf1.25です。何を撮影するにしても一般のスナップでこれだけの大口径を必要とするのかとなると趣味はともかく実用面で有力な理由がありません。ここで確認するタホンは基本的に医療用と考えて良さそうです。ですが、汎用でも大口径となると要求されてくることはあまり変わってきませんし、この収差配置なら十分一般撮影にも適する筈です。



 特許データの公称値はf1.3ではありますが、かなりギリギリです。
タホン ガラス配置図
タホン 縦収差図

 近接ですが、1930年代ぐらいの常識ですからどれぐらいになるのでしょうか。これも確かに結構寄ろうと思えば寄れるのですが特性面から限度もありそうです。レンズの先端から30cmというところが妥当な限界のように思います。最短30cmでf値は1.5が限界でそれ以上は光を捉えられません。絞りはf1.2の位置でf1.5ぐらいまで低下するということです。下図はそのf1.5の状態です。f1.2→f1.5は光量半分ぐらいだと思います。50cmぐらいに離せばf1.4、1mでf1.3まで回復します。このあたりはどのレンズでも同じでしょう。
タホンの近接ガラス配置図
タホンの近接収差図



 ライツは顕微鏡の会社でしたので、やはり医療用のレンズを設計しています。3種類あります(DE889077 DE936774 US2164028)。どれもバックフォーカスが短いのですが、36年設計のUS2164028を確認します。

べレク・ゾナー ガラス配置図
べレク・ゾナー 縦収差図

 一応f2で出図していますが、ガラスの直径だけで見るとf1.6あります。球面収差が非常にオーバーとなりますので、実際はf2.2がせいぜいと思います。これは味がない、本当に産業用という感じがします。バックフォーカスは20mmもありません。色収差も多く、現代にこれを選択する理由はなさそうです。

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