ガウス型をより洗練して行き着いたスピード・パンクロ
英クックは1920年にオピック Opicという設計を発表しましたが、これは現代に主流となっているガウス型で最初のものだそうです。ガウス型のレンズ自体はその名の由来となったガウス Gaussの他、ツァイス Zeissのプラナー Planarもありましたが、オピックは対称形を崩した最初のものとなりました。人気はなかったようですが、それでもオピックから派生した映画用レンズ スピード・パンクロ Speed Panchroは大きな成功を収め、1930~50年のクラシック映画のほとんどに使用されたと言われています。
実際、レンズの中には使った時に「もうこれだけあれば良い」と感じさせるほどのものがありますが、これはズミクロン 50mm f2と並んで代表的なものでしょう。クック社はガウスだけでもかなりの数の設計を公開しています。この中でスピード・パンクロとして設計されたのは1931年に特許出願されたもので、vademecumには特許番号の他、使われたガラスまで列挙されています。
「スピード」は高速レンズの意、「パンクロ」はパンクロマチック、モノクロフィルムのことです。
スピード・パンクロ(英特許 GB377537)の画角は推奨では35度ということなので70mmで出してみました。指定通りf2です。実際には75mm(3inch)が販売されていました。
販売されていた50mm(2inch)のスピード・パンクロは暗角がかなり出ます。ガラスの直径を絞って物理的に切っています。映画用の35mmはフィルムを縦に使いますのでイメージサークルが30mmぐらいあれば良いからです。使わない部分をカットすることで光の回折を防いだものと思われます。コスト安にもなります。ほぼ本物の図が下のものです。これでは確かに隅は暗くなります。そこで復刻では、全てのガラスを極力大きくすることでしっかり光を取り込めるようにしました。
50mmの図です。外側のピンク色の線が加わっただけです。70mmだと茶色までです。縦収差図では3/4の位置が大体75mmと同じです。横収差図では一番上がフィルムの角、2番目が75mmの角に相当します。特許の記載では画角は40度ぐらいまで大丈夫ということなのでこれで良さそうです。特許の記載では最初に設計したオピック(英特許 GB157040)の50度をもう少し抑えて改良したとあります。そこに35或いは40度とあります。
焦点距離 | Panchro 31年 | Panchro 45年以降 |
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18mm | f1.7 (7群9枚) | |
25mm | f2.0 (4群6枚) | f1.8 (7群9枚) |
28mm | f2.0 (4群6枚) | |
32mm | f2.0 (4群6枚) | f2.0 (5群7枚) |
35mm | f2.0 (4群6枚) | |
40mm | f2.0 (4群6枚) | f2.0 (5群7枚) |
50mm | f2.0 (4群6枚) | f2.0 (5群7枚) |
75mm | f2.0 (4群6枚) | f2.0 (4群6枚) |
作例がネット上にかなり出ていますので比較した結果と、収差の出方がシリーズ Iは初期ダゴールと、シリーズIIは改良ダゴールに似ていて、改良の道程の辿り方も同じ、どちらも初期の方が良いということで31年版で製造することにしました。やっぱり無名だったところから爆発的に成功しただけのインパクトはあるように見えます。改良版シリーズIIの方を最初に出していたらそれはなかったのかな?と個人的に思います。ズミクロンも初代が良いのではないでしょうか。シリーズIIへの改良はカラーフィルムへの対応なので、現代ではこちらの方が良さそうですが、この改良の最大の課題はコントラストを上げることだったようで、これがデジタルだと硬く出てしまう傾向です。悪いわけではない、ケースバイケースではあるのですが、本作の場合は魅力あるのはシリーズIの方なのではないかと思います。
31年版はコーティングが無かった時代のものなので、それに合わせ再製造でも無しとします。使われているガラスの耐候性が高いということもあり、無しで良しとの判断、フィルムに対しては単層ぐらいなら良いとは思うのです。しかし現代のデジカメの描写が硬いことも考えるとできれば入れたくはない、これは院落 P1の時と同じ判断です。これも写真と映像の両方での使用が想定されますので院落 P1と同様に、絞りはクリックなし、ヘリコイドの脂の緩め、回転もちょっと大きい、映画用に比べれば少ない、微妙な間で製造します。